SNAKE PORNOの5周年を記念して蘇る、伝説のスケートボードマガジン『WHEEL』の記憶
スケーター柳町 唯がディレクションを手掛けるブランド〈SNAKE PORNO(通称スネポル)〉が5周年を迎えたことを記念し、柳町氏のスケートボードヒストリーにおける重要なキャリアともいえる『WHEEL』マガジン時代を共に過ごした面々と写真展を開催する。
柳町氏は、現在『HIDDEN CHAMPION』で連載中の「スケートボード is 素敵」の中でも当時を振り返っているように、かつて90年代後半に存在した伝説のスケートボード雑誌『WHEEL』の編集スタッフとして活動していた。そしてその編集部には現在では大御所ともいえる写真家・平野太呂氏も在籍し、さらにその編集長を、現在『Sb Skateboarding Journal』やウェブサイト『skateboarding plus』などのディレクションを手掛ける小澤千一朗氏が務めていたのだ。
まさに同じ釜の飯を食った仲である3人が、90年代後半を振り返る写真展であるといえるのだが、そこは自由な発想を持つ柳町氏が行うのだからそれだけでは終わらない。なんと世界初となるスケートボードのグリップテープに写真をプリントする手法での展示となるというのだ。これには興味が惹かれる。
さらに、この写真展をサポートしているキャップブランド〈NEWHATTAN〉より、オープニングレセプションにて100名の方に「スネポルのロゴ刺繍入り帽子」のプレゼントまで用意されているという。写真展は8月4日(金)から8月9日(水)まで。行かない理由が見つからない。
最後に、小澤千一朗氏が写真展に向けて寄せた文章を紹介したい。
90’S、それも後期。芸術の都パリでアーティストとして活動していたマーク・ゴンザレスが、再びスケートボードに熱をあげて戻ってきた頃。REALから自画によるシグネーチャーデッキをリリースし、サンフランシスコが再びざわざわしはじめた。フランスのストリートに、今や人気のMAGENTAなどが産声をあげていなかったその時代、日本ではストリートでスケートを覚えた生粋のストリートスケーターが名を上げはじめていた。フレッシュで、自己主張ができて、感度が高くて、最高にカッコよかった。90年代後期。ストリートでメイクしたトピックスは、なんでも金字塔になった。やらかした者勝ち。覚悟をもってしでかした者勝ち。賞状やトロフィーから果てしなく遠い勲章が都市伝説となって輝いていた。ストリートを知ってる者だけが知っている栄光。その光景や音、香しい匂いは、普遍だった……。
とかなんとか言って、とにかくその時代に、目の前にスケートボードがあって、もうとりあえずゴンズは好きってことで、ひとりは滑り倒しアホな思考回路で変態みたいな合わせ技とか、そこやります?っていうガラスのショーウィンドーにほんの少しのバンクからウォールライドしたりして、物議を醸し出す当時一応AJSAプロだった男。今なお面白いスケートと思考とエロさで相変わらずストリートのトピックをアップロードしまくってる。
もうひとりはマイペースながらも滑る、とりあえずどこでも滑る。でも悲しいかな、Kグラインドをかけにいくのも歩道の路肩縁石が精一杯。でもいい。その分、すげえことをしでかしてしまうストリートスケーターの決定的瞬間を美しくきれいに撮り収める腕と目とメンタルがあった。分厚い写真集『決定的瞬間』で有名なアンリ・カルティエ=ブレッソンのスケート版で、プロスケーターが逆立ちしても敵わないシューティングスキルは、これもトリックメイクと言ってもいいんじゃないか。
そんな2人の男の最大公約数はスケートボード、とくにストリートがつくやつ。と、もうひとつある。蓄積した記録でオピニオンできるってことだ。ウィールを哭かせまくるスネポルの柳町唯はスケートやストリートに誰かや何かを書き記すことができる。フォトグラファーの平野太呂はスケートやストリートに誰かや何かを写し出すことができる。そんなことは誰でもできると言うなかれ。それじゃあ、スケートしてるだけでスケートをわかっているという手形があると思っている連中と一緒になってしまうよ。なんとなくカタチにそれっぽくなってればいいんじゃないんだよ。誰かが真似できない面白くて自分だけのプッシュボタンを持っている2人なのだ。
僕は、マーク・ゴンザレスがスケートシーンに熱をあげカムバックしてきたあの時代、WHEEL編集部という不思議な場所で、柳町唯という部下なのに編集部で一番優秀な出社拒否スケート編集者と、平野太呂というとんでもないズッコケたスケート偏愛を持つ一切の心のペースメーカーをフラットにしたフォトグラファーと、昼夜問わずひたすら現場に出ていた。そのときにストリートで出会えたスケーターたちは今でも忘れない大切な存在だ。
それはプロアマに関係なく。全員の汗の具合や顔も思い出せる。そして、それと同じかそれ以上に、この2人のことが強烈だった。これに加えたい編集部員がもうひとりいるのだが、今は出世してスケートから遠い本当のトロフィーとかをもらってしまうような仕事をしている。だから名前を書いたら怒られそうなので、氷上智宏というのは書かないでおいておこうと思う。
とにかくだ。WHEELマガジンという90年代後期からミレニアムにかけて、ゴンズの影に乗っかるようにしてわずかに存在したところから今をプッシュするスネポルというウィールブランドと、その起点になった90’Sスケート写真たちがみなさんの目に触れられるこの“NEWHATTAN PRESENTS SNAKE PORNO 5th × TARO HIRANO Photo Exhibition -90’S WHEEL-”は僕自身が楽しみでしょうがない。
そういえば、WHEELマガジンで現場に出ばっている頃、よく外タレさんに「WHEELじゃなくてWHEELSじゃないの?」って突っ込まれてたのを思い出した。僕たちが命名したのではないのだけど、たしかに4つのタイヤだからウィールはWHEELSと表現しなくてはいけない。わかっていたけど、商標登録を会社がした後だからどうにもならない。そんな弁解をしながら撮影していたのだった。だから、スネポルの正式名称はWHEELSじゃなくて、SNAKE’S PORNO WHEEL。柳町唯はそういう男、そういうストリートスケーターだ。口が減らないし、ワシャワシャうるさくディスを入れてくるし、スケベだし、いい加減だ。たまらない。だけど、ずっと中にしまっているものがある。ノスタルジアやセンチメンタルもある。そして、忘れないで、わかっていることをわかったままにプッシュし続けていくしぶとさがある。それこそが、ストリートに住民票を置いたスケーターだなって思わずにはいられない。ちなみに口が減り過ぎてて逆にこわいぜ!っていう虎視淡々な平野太呂も、そういうタフさと愛を内包している。
そろそろ締めよう。この写真展にいたって言えば、スケートが僕らを繋げてくれたというのは違う。そういう決めセリフは当てはまらない。アホなWHEELマガジン編集部があったから、シンクロしたズッコケ人間たちの記録から紐解く“NEWHATTAN PRESENTS SNAKE PORNO 5th × TARO HIRANO Photo Exhibition -90’S WHEEL-”だと思う。思い入れが強過ぎて身内ウケが高まってしまったら、それもまた一興。なんでもいいから、ぜひ目撃してほしい。
文/小澤千一朗
NEWHATTAN PRESENTS
SNAKE PORNO 5th× TARO HIRANO Photo Exhibition
-90’S WHEEL-
8月4日(金)18:00_21:00 (オープニング・レセプション)
8月5日(土)~8月9日(水)13:00_20:00
原宿 WAG GALLERY
www.wag-gallery.com/
柳町 唯
SNAKE’S PORNO WHEELディレクター。1993年からの3年間、AJSA公認プロスケーターとして活動。そのイデオロギーからは一見考えられないが、一定以上のスキルを証明する免罪符をこの時代に手に入れておいたのは本人にとっても嬉しい誤算。さらにはコンテストという名のお祭り騒ぎやパフォーマンスも決して嫌いではない、というよりもその虜だから、なお良しだった。数々のスケートボード雑誌、VIDEO、DVDなどに出演するかたわら、1999年からは株式会社メディアハウス刊行のスケートボード専門誌WHEELの編集員としても活動開始。スケートならではのセクシーさと自由な着眼点、そしてたまに見え隠れする文学的ノスタルジアで、元々その気風があったWHEELマガジンとその編集スタイルに見事にマッチ。日本初のプロスケータースキルのプロのエディターが誕生する。その後、株式会社レバンテよりスケートボードのアパレルブランド「metropia」のデザイン、企画を担当。フリーランスのエディター業を継続しつつ、ついには2012年、SNAKE’S PORNO WHEELを立ち上げ、運営、企画、デザインを担当している。2015年にはペンシルベニアのLOSTSOUL skateboardsからシグネーチャーデッキをリリース。
平野太呂
当時、TARO名義で数々のスケート写真を残していた彼は、その後、平野太呂として、スケートボードというリップから飛び出して、広告、CDジャケットや数多くの一般誌とカルチャー誌の表紙を飾り、主な作品に写真集『POOL』『Los Angeles Car Club』『The Kings』、他に星野源との共著『ばらばら』、書籍『東京の仕事場』『ボクと先輩』などがある。加えて、WHEELマガジンなき後、刊行中の『Sb Skateboard Journal』ではその立ち上げから関わり現在もフォトエディターと名誉おじさんとして寄与している。ちなみに、WHEELマガジンで彼が発表したポートフォリオ『GOOD NIGHT』(2001年)は、国内外において例を見ない完成度と独自性の高いものとして記憶されている。
小澤千一朗
編集者/ライター。元WHEELマガジン編集長 現Sb Skateboard Journalディレクター兼 skateboarding plus編集長