木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家、石川竜一の新境地ともいえる写真展”CAMP”
自らが生まれ育った沖縄や雑然とした都市に住まう人々をかつてない迫真性をもって捉えたシリーズで話題となった写真家・石川竜一が、カメラのみを頼りに、大自然に身を投じながら撮り続けた写真とは――
本展は、2014年に木村伊兵衛写真賞を受賞した石川の最新作であり、彼の更なる進化を予期させる特別展示です。
この撮影に際し、彼は二つの日本国内の山林を巡りました。単に山を歩くのではなく、通常の登山で必要とされるテントや食料を持たずに、ごく最小限の装備だけを携えて、現地で捕獲した生き物を糧としながら自然の中に分け入りました。「サバイバル登山」とも呼ぶべき自分の生存を賭けた登山と並行して撮られた写真には、人間はおろか、生き物の姿さえ写っていません。ただ、そうした自然のあるがままの姿や風に揺れる植物のささやかな機微、細やかに漏れ輝く光や、さらには嵐などの不意のアクシデントによりノイズに覆われてしまった画像も含め、そこで出会い体験したことのすべてを、偽りなく凄然ととどめています。
こうした写真からは、今までのポートレイトに見られたような都市の風景や独特の人物像などとは異なり、分かりやすい記号の類は一切排除されています。覆いかぶさるような自然と、そこを生き抜こうとする人間――そうしたせめぎあいの末に生まれた写真が、緊張感をはらみながら連なっていきます。暗闇に閉じ込められた人間が五感をもって自らの身体を相対化するように、石川は森の奥で自分自身を見つめ、自らの生の痕跡を写しとどめた写真とも言えるでしょう。
自らのルーツである沖縄から離れ、人間や都市、それを形作る一切の人工物から解き放たれた石川竜一の新境地を、ぜひご覧ください。