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Ben Eine

街中に巨大でカラフルなフォントを落とし込む、「シャッターフォント」が代名詞のイギリス人アーティスト。

カラフルに彩った巨大なフォントを街中にある公共施設の外壁やショップのシャッターなどへ、ハンドペイントで落とし込むロンドンのアーティスト「Ben Eine(ベン・アイン)」。独自にアレンジしたフォントの配置・構成やその書体を考え抜き、その場に合わせ可読性や視認性に特化したベンが描くシンプルなワードやフレーズにより、タイポグラフィを初めてストリートに落とし込んだ先駆者として、世界中の人々から認知され、シャッターに多くの作品を残すスタイルから「シャッターフォント」と呼ばれ多くの人に親しまれている。来日していたBenに話を聞く事が出来たので、そのインタビューをお届けする。

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——簡単に自己紹介をお願いします。いつからグラフィティやストリートアートに対して興味を持ち始めたのでしょうか。

ロンドン出身で、現在はペインターをやっているよ。えーっと、10代前半に「SUBWAY ART」という本に出会ったんだ。その本は80年代前半のニューヨークのリアルなストリートシーンを切り取ったフォトグラファーの“Martha Cooper”と “Henry Calfant”による写真集で、俺の人生を大きく左右するバイブルとなっている。それを見てからグラフィティを描き始め、最初のスプレーペイントはトレインにボムしたよ(笑)。1984年から20年ぐらいグラフィティを続け、それから15年ほどストリートアーティストとして活動しているよ。

——そうして世界中に大きなファンベースを持つストリートアーティストとしての地位を築いたんですね。

世界中にファンだけではなく、俺の子供もたくさんいるんだ(笑)。うーん、正直なところ計画的にこうなったわけではなくて、世界中を旅して回って良い場所があったら描いていたんだよ。そうしたら、自然と今のポジションにたどり着いたというか。とにかくラッキーだったんだ(笑)。

——アメリカのホワイトハウスにもあなたの作品が飾ってあるとか。

ハハハ、YES!今ではオバマ大統領の自宅に飾ってあると聞いているよ。ある日、Downing Street(イギリス首相官邸)から電話がかかってきて「David Cameron(当時のイギリス首相)がオバマ大統領へ初めての公式訪問を行います。その際、アートの交換をすることを約束したんですが、デイヴィッド首相はあなたのアートにとても興味がありますので、作品を譲っていただけませんか?」ってお願いされたんだ。二つ返事でOKして、「Twenty First Century City(21世紀の都市)」と描いた作品をデイヴィッド首相に送り、彼がオバマ大統領に渡したんだ。そうしてオバマ大統領がホワイトハウスに住んでいた期間、その作品はそこに飾られていて、今はシカゴの彼の自宅に飾ってあるんだよ。きっと今生きているアーティストでホワイトハウスに飾られた唯一のアーティストだと自負しているよ(笑)。

——それでは、今回来日した経緯を教えてください。

〈J PRESS〉っていうブランドの新しい店舗が青山にオープンしたから、その壁をペイントしに来たんだ。今回は〈J PRESS〉ともコラボして、青山店限定のTシャツやフーディもリリースしているからぜひチェックしてみてよ。それから、アダチ版画印刷研究所というところを見学しにいってきたよ。そこは300年ぐらい歴史のある木版印刷のお店。昔から自分のアートワークもいつかそこで印刷したいと思っていて。そこの職人の仕事ぶりや、満員電車に乗ってる中での発見であったり、かれこれ10回以上は日本にきているんだけど毎回すごく良い影響を受けるんだ。それから、付き合いが長い日本の友人にもあってハングアウトしているよ。しかも、たまたまD*FACEのアートショーもやっていてすごく感動したよ!渋谷に大きなミューラルも描いていたしね。彼とは昔から仲が良くて、とあるスタジオでアシスタントとして数年間一緒に働いたり、彼のギャラリー「Stolen Speace Gallery」でエキシビションを行って合同作品を作ったりしたこともあるんだ。

——なぜ、グラフィティライターからストリートアーティストへとシフトしていったんでしょうか。

シンプルな理由は、牢屋にぶち込まれたくないからさ(笑)。この国も同じだろうけどイギリスでもグラフィティは大きな犯罪で、警察の厄介になったら刑務所に行かなければならない。でも、面白いことに彼らはみんなストリートアートは大好きなんだ。ストリートアーティストの事を賞賛してくれるけど、グラフィティライターにはすごく厳しい。だから、ライターだった頃の経験や様々な発見を生かして、それまでとは少しテイストを変えてストリートアーティストとしてのキャリアをスタートしたのさ。

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——特徴的なフォントをカラフルにスプレーでペイントするスタイルですが、現在の作風に行き着いたきっかけを教えてください。

かつてグラフィティにのめり込んでいた時、四六時中レターのフォルムを模索し続けていた。それが基本なんだけど、グラフィティを始めると同時に古くからあるタイポグラフィにも魅せられていたんだ。1980年代は、コンピューターがまだ発展していなく、木版印刷が主流だった。誰かが描いたレターなんかを、コンピューターを使わず木版で印刷していて、複製すればするほど木版は痛んでいく。そうして、複製されたものはユニークで唯一無二の要素、すなわち味を感じるものになると思っている。だから今回の来日で、アダチ版画印刷研究所へ足を運んだんだ。IllustratorやPhotoshopでは絶対に表現できない、ハンドメイドで人が作った味というものに魅了され続けているんだよ。だから俺のスタイルで、存在しているタイポグラフィーのフォームを通し、今まで誰もやらなかった“タイポグラフィをスプレーで巨大なサイズに書き起こす”という事をやリ始めたんだ。かつてグラフィティで学んだ全てのことを応用して、木版印刷やタイポグラフィーで使用されていたようなハンドメイドで作成されていたフォントにアレンジを加え、モダンになスタイルで街中に落とし込んで表現しているんだよ。カチカチだったフォントに幅を変え、フローや色味を加えそのスタイルを刷新してね。文字を模索するグラフィティとも繋がる部分が多いけど、当時よりもっと挑戦的な気分で現在は活動できているよ。

——スプレーペイントがあなたの魅力的な手法ですが、グラフィティはもうやらないんですか。

俺の人生を大きく変え、突き動かす原動力は今でもグラフィティなんだよ(笑)。独自のレターを考えるのがすごく楽しいんだ。文字のスタイルを捻ったり、奇抜なカラーリングにしてみたり、ある物体と文字を掛け合わせるモーフィングをやってみたり。オリジナルを探し求め、発案した時は爽快な気分になるし、やる気がみなぎって早く街中にドロップし行きたくなるんだよ。だから、多きな声では言えないけど今でも隙を見てトレインボムをやったりしているよ。1番スリルがあるし、多くの人に見てもらえるから。タイポグラフィはシンプルなワードをわかりやすく書くことを意識しているんだけど、グラフィティの場合はシンプルな単語にユニークさを加え、造語などを作り出して独創的にし、なおかつちゃんと読める。これは新しい言語みたいなもので、他人が見れば単なる落書き。でも俺にとっては最高級の大好物なのさ。

——では、影響を受けたアーティストもグラフィティライターが多いのでしょうか。

もちろんさ。言い始めたらキリがないぐらい、世界中のグラフィティライターにいいインスピレーションやモチベーションをもらっているよ。ヨーロッパではDELTAとか、ニューヨークのESPOなんかもレターを極めていて似たような境遇にあるから好きなんだ。家の中でペーパーだけに書くのではなく、そこから外へ出ていった奴らは価値のある良いアーティストだと個人的に感じるよ。自分のスタイルを突き詰めて、外で表現してきた奴らに影響を受けたんだ。

——今後の予定などはありますか。

次の月にブラジルのサンパウロで個展をする予定だよ。

——アーティストを目指す若者にメッセージをください。

ドロー&ペイント×100。描き続けていたら、ある日ラッキーな事が起きてアーティストになれるかもね。

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