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Rafael Sliks

流れるようなタギングスタイルを武器に活動するラファエル・スリックスのインタビュー

昨今ではグラフィティやストリートアートがアートシーンの上層で盛り上がりを見せ、アパレルや日常的に使うアイテムにおいても、路上で見つけていたものを当たり前のように目にする機会が増えた。また、近年ではゲームや仮想空間などのインターネットやメタバース上でもグラフィティがアートとして認識され、その畑から出てきたアーティスト達が日々活躍の幅を広げている。これは80年代のグラフィティ黎明期に比べれば大きな進化であり、これからどのように進化していくのか楽しみでもある。そんな中、流れるようなフローで正確なタギングが魅力的なRafael Sliks(ラファエル・スリックス)がブラジルから来日し、渋谷のBlock Houseで個展を開催している。サンパウロを拠点にストリートで20年以上活動した経験を活かし、落書きのゆく先を見据え、美術としてのグラフィティとは何かを常に考えているという彼に話をうかがった。

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―日本の読者に向け簡単に自己紹介をお願いします。
日本の裏側にあるブラジルの中部地方、サンパウロのベラビスタ地区出身でアーティストとして活動しているよ。幼い頃から絵を描き始め、家でも学校でも関係なく絵で自分を表現していた。毎日、先生に見つからないように別のテーブルに座ってこっそり絵を描いていて学年が上の奴らとよく一緒にいたんだ。それからスケートボードが好きになりPixoに出会った。Pixoとはサンパウロの独特なスタイルの落書きのことで、文字が直線的なグラフィックになる傾向があるんだ。確か1996年末に実際にストリートでのボミングをスタートしたよ。

―幼少期から絵を描いていたとのことですが、どんな暮らしをしていましたか?
俺が5歳くらいの時、実家の隣に教師をしている名付け親が住んでいた。俺の家は裕福ではなく画材を買う余裕がなかったけど、隣に住んでる名付け親が画材を持っていたから俺はその家に行って絵を描いたり落書きをしたりしていた。地元は村落で子供を守るために出入り口には門があり、この小さな宇宙の中で子供らしいことをして楽しんでいたよ。住んでいた中部地方には街に人が溢れかえっていて、母は俺を門の外で遊ばせることはしなかったんだ。ある日、家族でこの地域を引っ越して中心部から離れた郊外へ移り、新しい学校へ行き新しい友人に出会うようになった。そうして13歳のときに街や貧民街で遊び始め、友人がさらに増えて良い部分も悪い部分も目にするようになった。だけど俺は幸いなことに常にストリートの良い側面に導かれていった。悪い側面は子どもがドラッグを使ったり、親のサポートが一切なかったりなど、本当に目を覆いたくなるようなものだったんだ。俺は単純に物事を理解して遊びながら何事にも賢くなりたかったのさ。ストリートでは自分を守るために賢くなる必要があるからね。

―初めてグラフィティを見た時の印象はどうでしたか?
初めて落書きを見たときは大きな衝撃を受けたよ。なんの目的で一体どうやって壁に描かれたのか不思議でならなかった。そんなある日、ストリートでグラフィティをやっている奴らを見つけ、真っ先に彼らにところへ行って何を描いているのかとか質問して色々と教えてもらったんだ。もちろん彼らは年上だったけど寛容に受け入れてくれて、ラッキーなことに俺のグラフィティはその場で生まれたんだ。家に戻ってからもずっとスタイルを研究して、それから常に自分のスタイルが進化し続けるように日々模索する生活が続いているよ。

―あなたの住んでいる地域には大きなグラフィティ・コミュニティがあると聞きましたが、そのコミュニティについて教えてください。
俺の住んでいる地域はCambuci(カンブシ)のすぐ隣にあるAclimaçao(アクリマサオ)というところで、この地域には様々なスタイルのアーティストやライターが数多くいるんだ。また、日本人が多く住む地区で、日本の文化が根付いている。世界各地の文化が集まる大都会サンパウロの面白いクールなポイントだよ。でもサンパウロはオリジナリティや原点を失ってはいない特別な場所なんだ。

―何かクルーには所属していますか?
クルーはDEM、LOLC、VAO、156に所属しているよ。好きなライターはラッキーなことにみんな知人なんだ。

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―ストリートで絵を描き始めようと思ったきっかけや、今のスタイルに行き着いた経緯はなんですか?
街で活動をスタートしたのは、ストリートは広大で様々なスポットやテクスチャーがあり、そこは自身を表現し他の人々と対話をするために開かれていると感じているからなんだ。俺のスタイルは子供の頃に見たアニメだったり、太極拳の先生だった叔父や兄弟と一緒にカンフー映画などを見て動きを覚え、自分のハンドスタイルを実験することで成長していった。そして数年後に自分のスタイルを理解しその上で模索して、自分のテクニックを開発するまで描き続けながら研究し続けたんだ。

―あなたのタグのフローは音楽の影響もありますか?どんな音楽が好きなのでしょうか?
確かに俺のモーションは音楽と大いに関係があると思う。音楽があれば自分の動きをよりスムーズにすることができるし、良い雰囲気を感じて描くことができる。Cinematic Orchestra、Alfa mist、Roots Manuva、Massive Attackなどが好きだよ。ラップやインストゥルメンタルもよく聴くんだけど、冷静になって考えてみるとビートを作ることが好きなんだと思う。そうやって俺は絵画としての音楽、音楽としての絵画を創作しているんだ。

―作品としてキャンバスに絵を描くようになったのはいつ頃からですか?
キャンバスに絵を描き始めたのは、どうしてもグラフィティをやりたかったある日、雨がすごく降っていて近くのストリートに作業員が居てできなかったんだ。だから友達と夜に散歩して、見るからに必要そうではない建設用の亜鉛板を見つけて家に持って帰ったんだ。そしてその板の上で自分のタグを描くようになった。美術館に行ったときにキャンバスを見て、そういったキャンバスにも描きたいと思いそれから描き続けているよ。

―インスピレーションはどのように得ていますか?
インスピレーションは自然から大きな影響を受けているよ。心休まるお気に入りの場所に行ってリラックスしながら目を見開いて理解することで、この広大な宇宙に対するたくさんの好奇心と敬意を表している。そして様々な音楽や、文化の違いを持つ大都市で起こるあらゆるカオスな現象が含まれるシティのアーバンライフ。これらが俺にインスピレーションを与えてくれるんだ。

―今回の東京でのショーのコンセプトを教えてください。
東京でのショーのコンセプトは、数年前から自然や都市のテクスチャーについて研究していて常にそれがどう見えるのかということを追求して自分のテクニックを駆使し作品を制作しているんだ。今回は会場のBLOCK HOUSEと、パートナーであるJinkinoko、COOPTORiS、XLARGE、FTC、EASE、islandjapan、そしてHidden Championの愛とサポートに感謝しているよ!

―あなたの作品と抽象表現者の一人であるジャクソン・ポロックの作品との間に大きな類似性を感じますが、好きな画家やファインアートのアーティストはいますか?
まさにポロックは俺の絵の師匠としてリスペクトしているよ。俺は貧しい家庭で育ち美術大学に通う余裕がなかったから家や学校で本や映画を見て勉強するようになった。大学で美術を専攻している友人と意見交換をしたりもしたけど、やはりグラフィティが俺の絵画への関心を目覚めさせてくれたんだ。本や映画では様々なスタイルや流派の絵画の巨匠たちや古いアートスクールの違いについて学んだよ。抽象表現主義やシュルレアリスム、印象派、抽象画、アールヌーボー、点描画、表現主義、ダダイズムとかね。その中で俺の好きなアーティストはポロック、モディリアーニ、ピカソ、モネ、ゴーギャン、マグリット、ダリ、フリーダ、スーラ、ドガ、リベラ、グスタフ・クリムト、カンディンスキーなど、本当にたくさんの巨匠たちがいるんだ。こういったアーティストが芸術のために様々な革命的なことを行い、アートスクールやムーブメントを作り出したことに感謝している。永遠に終わりのない進化だからね。

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―世界各国にあるグラフィティについて違いは感じますか?
グラフィティは世界のどの地域でも似ているけど、国によって少しカルチャーが異なるだけだと思うよ。俺は出身がサンパウロだからその都市については詳しく話す事ができるし、俺たちはPixoから、誰かの上には描くことはできない、その人のストーリーを消してはいけないと学んだ。もしそれを行った場合は非常に危険なことが起こる可能性だってある。だからまず他人を尊重し、街でリスペクトされるようになる事が重要なんだ。

―スプレイヤーを使用して巨大なスローアップやタグなど描いている写真を見た事がありますが、好きなグラフィティのツールはなんですか?
プレッシャーが強い缶にNYファットやアストロファットキャップを付けて、大量にインクを噴射させるのが好きだよ。丸芯と角芯のタグ用のクラシックマーカー、スクイーザー、ステッカーなどグラフィティシーンにまつわるすべてのものが好きで、自分を表現するためにストリートへ出かけることを本当に慈しんでいるんだ。

―また、自身のブランドも持っていらっしゃいますが、どんなコンセプトでスタートしたんですか?
2009年にグラフィックデザイナーとしてストリートブランドのイラストを描いていた時にブランドというものに興味を持つようになった。そして実際に2012年にアンダーグラウンドのストリートマーケットを盛り上げていこうという思いで〈EASE〉というブランドを立ち上げたんだ。これまでに世界中のアーティストやスケートボーダーの仲間とコラボレーションをおこなってきた。コラボレーションしたアーティストは現役でストリートで動いていて、これはストリートに重きを置くブランドコンセプトとリンクしているんだ。グラフィティをやるにはアクティブでなければならないし、EASEがアクティブな奴らをフックするということは、生きていく中で自分の好きなことをやる思いというところにつながるんだ。俺は日本が好きで、スケートボードと並んでストリートのシーンも盛り上がっているのを目の当たりにしているから、みんなにも一度チェックして欲しいよ。

―今後の目標はありますか?
俺の目標は自分の流れに従ってあらゆる雰囲気を楽しみながら生活し、人生において様々な物事を発見することだよ。

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