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MURO × NICK WALKER。東京・ブリストル・ニューヨーク、ヒップホップが繋げた愛の結晶

byHidden Champion

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’80年代よりヒップホップカルチャーに影響を受け、各々の道を歩んできたDJ/プロデューサーのMUROと、グラフィティ&現代アーティストのニック・ウォーカー。今では世界的に活躍する2人がタッグを組み、全7曲入りのスペシャルなバイナルレコード『Compilation Vinyl by MURO(KING OF DIGGIN) Nick Walker Artittide by Gypsy Eye』を制作した。

 

‘70年代にニューヨーク/ブロンクスで誕生したヒップホップカルチャーが、ローカルを現状維持しながら、世界へと広まっていくにはさほど時間はかからなかった。それまで耳にしたことのなかったビートにヤラれた人たちは、人種や国境など関係なく、自分もヒップホップカルチャーの一部になりたいと願ったことと思う。日本を代表するDJ/プロデューサー、KING OF DOGGINことMUROと、イギリスを代表するグラフィティ/現代アーティストのニック・ウォーカーも、’80年代に完全にヒップホップカルチャーに魅了された人たちの1人。MUROは東京でDJとラップを始め、ニックはブリストルでグラフィティに目覚めスプレー缶を握った。それから30年以上もの月日が経ち、気付けば音楽、アートと、各々がワールドワイドに活躍。そんな2人がタッグを組み、自分たちが辿ってきた道のりを伝えるべくコンピレーションをアナログレコードで制作した。
 
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ニック・ウォーカー 2014年来日時、渋谷PARCOの外壁にて

 
「MUROの存在を知ったのはブリストル。フェスティバルで日本の友人がMUROのカセットテープをくれたんだよ。“King Of Diggin 1・2・3・4・5”とね。オールドスクール・ブレイクビーツのファンだった俺にとっては、そのテープは超ヤバかった。その頃からMUROと交流をするようになったんだけど、フェイクなヒップホップが世界中に蔓延している中で、MUROはずっとレベルの高いことをしてきていると思うんだよ」(ニック・ウォーカー/以下、N)。
 
イギリス北部のブリストル生まれ。後にマッシブ・アタックとなるブリストルのサウンドシステム・クルー、ワイルド・バンチのメンバーともに10代を過ごしたニックは、BBCラジオの名物ディスクジョッキーであるジョン・ピールが当時やっていたラジオ番組でかかった、ランDMCの『Sucker MC’S』を聴いて「一体何なんだ!」と度肝を抜かれヒップホップの道へ入っていった。ニューヨークグラフィティの伝説ライター、ドンディ・ホワイトに影響を受け、グラフィティライターとして活動を開始。3D(マッシブ・アタックのメンバーであるロバート・デル・ナジャ)を始めとした仲間たちとともに、音楽とリンクしながらブリストルでグラフィティシーンを築き上げてきた。’90年代に入り3Dの影響でステンシルの技も覚えたニックは、’92年に初めて憧れのニューヨークを訪れ、その2年後には初の個展を開催。それを機に、注目を浴びるようになったニックはブリストルとニューヨークを行き来しアート制作に集中してきた。
 
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今回リリースされるバイナルには、ニックが長いこと描き続けているキャラクター“VANDAL CHILD”のステンシルアートがともに付いてくる。
 
「VANDAL CHILDは、60年代からやってきたイギリスのそこら中にいる銀行マンのような格好をした子供なんだ。子供はネクストゼネレーションだし、次世代に託すという意味でキャラクターにしたんだ。彼らは皆と同じ銀行マンの格好をして、街にグラフィティを描く。描き終わったあとは、誰にも見つからないように人ごみに消えていくんだ。誰にも見つからないようにね」(N)。
 
黒いスーツにハットを被ったキャラクターが、ラジカセを持っているその絵は、まるでニック自身を表現しているのではないかと感じてしまう。
 
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DJ MURO 渋谷タワーレコード6FでMURO氏がプロデュースする
「TOKYO RECORD」のコーナーにて

 
さて気になるレコードの内容に関しては、ニックが尊敬するMUROが舵を取り選曲をした。ニックが’80年代にブリストルでグラフィティライターとして活動していた頃、MUROは東京でクラッシュ・ポッセとして活動を開始していた。
 
「ワイルド・バンチのDJミロは、クラッシュ・ポッセ時代から僕のアイドルなんです(笑)。当時はクラブチッタ川崎などに来日をしてワイルド・バンチを再現してくれたりして、とにかく影響を受けました」(MURO/以下、M)。
 
東京、ブリストル、ニューヨークを意識した、今回のコンピレーションにはメジャー・フォースの楽曲にDJミロがフューチャリングされた「The Return Of The Originak Art Form」を始め、ブリストルのベースミュージックを牽引してきたスミス・アンド・マイティの「Jungle Man Corner」「Walking」、ヒップホップのルーツに戻れとばかりにセレクトされたマリー・マールがプロデュースを果たしたビッグ・ダディ・ケーンの「Ain’t no half steppin’ Hotchillin Mix」「Make The Music」、さらには映画『ワイルド・スタイル』の主人公を演じたZORO役のリー・ジョージ・キュノネスと、MUROが共演を果たした「East River Park」など、東京・ブリストル・ニューヨークを代表する楽曲が勢揃い。
 
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「ニックは僕のミックスカセットテープを聴いてくれていたり、同じ年ということもあって、通ってきた道や、聴いてきた音楽が似ているんです。バック・トゥ・バックじゃないですけど、東京、ブリストル、ニューヨークの三都市が上手く回り合ったコンピレーションになればいいなと思い、さらにはバイナルで音を鳴らしたら良いだろうなと思う曲を選びました」(M)。
 
相変わらずレコードを掘ることに余念がないMUROだが、ここ数年はヨーロッパブームがきているそうだ。
 
「7インチが流行り出してから気になり始めているんですけど、UK版しか出ていない作品だとか、UK版とアメリカ版ではカップリングが違うものとかあったりするんです。それとUK版は、かなり細かい部分でセンスがいい。デザインも洗練されているものが多くて好きなんですよね」(M)
 
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MUROとニック・ウォーカー。ヒップホップカルチャーに魅せられ、その歴史の一部となった2人による、時空を越えた奇跡のコラボレーション作品。音楽、アートともに、必ず貴方の家の大切な家宝になること間違いないはずだ。
 
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V.A.
『Compilation Vinyl by MURO(KING OF DIGGIN’) Nick Walker Arttide by Gypsy Eye』

WISE ENTERPRISE
12,000円(発売中)
販売店: HMV、タワーレコード、Arttitude(オンラインストア)
 
<プロフィール>
MURO
日本が世界に誇るKing Of Diggin’ことMURO。「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。現在もレーベルオフィシャルMIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。新規レーベル“TOKYO RECORDS”のプロデューサーにも名を連ね、カバーアルバム【和音】をリリースするなど、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。
 
Nick Walker (ニック・ウォーカー)
1969年生まれ。ブリストル出身のグラフィティ&シルクスクリーンアーティスト。’80年代よりブリストルでグラフィティライターとして活動をスタートしてから、2013年までブリストルを拠点にアーティストとして活躍。’90年代にはコシノミチコに見出されロンドンのランウェイにスプレー缶を持って登場。またスタンリー・キューブリックの映画作品に携わった経験もある。2008年開催されたソロショーでさらに注目を浴び、ロンドンのショーでは前日に100人以上もの人々が並んだことも。現在はニューヨークを拠点に、バンクシーと肩を並べるUKストリート発のギャラリー所属トップアーティストとして活動中。
 
text: Kana Yoshioka
photo: Hidenori Matsuoka